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呼吸器内科 

77歳男性、肺結核、肺真菌症 (多摩永山病院 谷内七三子)

概要

19歳時に肺結核で右肺切除手術を受けた。手術により軽快し65歳の定年まで会社員として営業職に従事した。健診では常に胸部レントゲン異常を指摘され、結核既往があるために進学や就職などの際は差別を受け不利なことが多かった。
68歳頃より労作時息切れが徐々に悪化、70歳時に咳嗽、膿性痰、微熱、食欲不振が2ヵ月持続し5kgの体重減少ありとのことで当院を受診した。

初診時現症

【既往症・生活歴】
19歳時 肺結核 右肺上葉切除。喫煙 15本/日 20~67歳まで、3年前に禁煙。常用薬 なし。

【初診時現症】
るいそうあるも日常生活に支障なし。酸素飽和度 97%。胸部聴診 心音・肺音に異常なし。


主な検査所見など

血液検査:白血球 3900/μL, CRP 4.20mg/dL (軽度炎症)、その他特記すべき異常なし。

胸部レントゲン・CT:右上葉切除後、気管右方偏位。右中葉・下葉、左舌区・下葉に気道散布性の粒状影、それらの癒合影(tree-in bud appearance)、気管支血管束の肥厚が多発しており活動性肺結核(再燃)を疑う。

診断と鑑別診断

抗結核薬3剤併用療法(イソニアジド、リファンピシン、エサンブトール)×1年間の治療により結核は軽快しましたが、肺組織が破壊され後遺症として空洞と気管支拡張症を残しての安定となりました。
3剤併用療法終了4年後、発熱・膿性痰・呼吸困難がみられるようになり、肺の浸潤影の悪化もみられました。気管支鏡検査を行い肺真菌症(アスペルギルス症)と診断、結核で破壊された弱い肺組織への真菌感染でした。抗真菌薬治療を行い症状は一時軽快したものの、その3年後に再び増悪しました。
このときには食欲不振・体力低下が進行し、右肺は空洞と無気肺で占められ正常肺組織が消失していました。喀痰培養からは結核の死菌が検出されました。

図1

谷内症例3 図1、2.pdf

図2

谷内症例3 図3.pdf

図3

治療方針

肺結核後遺症を背景とした肺真菌症の進行として、抗真菌薬治療、栄養管理、リハビリ等を行うも改善がなく、再燃結核から8年、肺真菌症併発から3年で永眠されました。

治療経過の総括と解説

高齢者の結核は内因性再燃(二次結核症)として発病します。戦中・戦後の結核蔓延時代に一度感染し体内で冬眠していた休止菌が加齢による免疫機能低下に伴い活発化し発病するのです。結核菌を吸い込んで2年以内に発病する一次結核は菌を吸い込んだ人の10~15%くらいであり、残りの85~90%の人は自分でも気づかないうちに吸い込んだ休止菌をもった状態で過ごします。知らず知らずのうちに吸い込んで体内に冬眠していた結核菌が何十年も経ってから活発化するというのが結核罹患歴のない高齢者の結核です。
結核菌は完全に死滅しないという特徴の他にもう一つ、結核は菌が沈静化したとしても肺組織を破壊し空洞や気管支拡張症などの後遺症を残す、という問題があります。高齢になり免疫力が低下するとこの弱い肺組織に別の病原菌が感染したり(二次感染)、弱い組織の血管が切れて喀血したりすることがあります。
アスペルギルスを含むの真菌の仲間は空気などの環境中に存在しています。環境から吸いこんで体内に入ったり、口の中や皮膚に付いたりしていますが、健康な人に悪さして感染症を起こすことはほとんどありません。言い換えれば、普段の体力作り・健康維持が真菌がくっついていても悪さをされないために大切なことであり、真菌感染症に罹るということは体力・免疫力がそれだけ低下しているともいえます。抗真菌薬の投薬治療は長期戦となり、また抗真菌薬は高価で副作用の多い薬剤です。真菌は生活するあらゆる場所に生育しており完全に生活から閉め出すことは不可能なため、真菌感染症は治療に難渋することが多いというのが現状です。

参考文献