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呼吸器内科

89歳男性、誤嚥性肺炎 (多摩永山病院呼吸器内科 谷内七三子)

概要

80歳時に多発脳梗塞、87歳時にパーキンソン症候群と診断された。10か月前に肺炎で入院、その後リハビリ型施設で4か月過ごし自宅生活に戻った。
娘・孫の家族と同居、寝たり起きたりの生活、介助にて車いすに騎乗し、全粥・きざみ食を介助にて摂取していた。排泄はオムツ。無口だが意思疎通は可能。訪問診療月1回、訪問看護なし、介護保険(要介護5)にてショートステイやデイサービスを利用し施設と自宅の半々生活をしていた。38.3℃の発熱、
一点をみつめて意思疎通ができない、水分と薬は飲めるが食事がとれない、とのことで救急病院を受診し即入院となった。

初診時現症

【既往症・生活歴】
45歳時 胃潰瘍手術、78歳時 前立腺肥大・前立腺がんの疑い、83歳時から腸閉塞で3回入院、85歳頃 転倒し両手・肋骨骨折。喫煙 20本/日×約70年間、1年前に禁煙。常用薬 抗血小板薬(脳梗塞の再発予防)、降圧剤、胃薬、便秘薬などトータル7種類。

【初診時現症】
臥床、意識もうろうとしているが呼びかけに頷きあり。体温37.8℃、血圧167/98mmHg、心拍数98回/分・整、酸素飽和度86%(低酸素血症あり) →酸素マスク投与開始。口腔内の乾燥・汚染あり。胸部聴診で肺全体に湿性ラ音あり。上下肢は左側優位に拘縮あり、四肢浮腫なし、褥瘡なし。


主な検査所見など

血液検査:白血球 21400/μL, CRP 29.76mg/dL (高度炎症)、
BUN 34.5mg/dL, Cre 0.68mg/dL (脱水症)、
TP 5.8g/dL, Alb 2.2g/dL (低蛋白血症・低栄養状態)、
Hb 10.5g/dL (貧血)。

胸部レントゲン・CT:右肺全域と左下肺に気管支壁の肥厚を伴った浸潤影あり、重症の肺炎の所見。

診断と鑑別診断

脳梗塞・パーキンソン症候群の病歴、10ヶ月前にも肺炎のエピソードあり、さらに画像上肺炎像は背中側に強い傾向があること、食事中にむせる、口腔内が汚染しているなどの徴候から、食物や口腔内容物の気管内吸引により生じる誤嚥性肺炎と診断しました。
入院時の喀痰培養からは口腔内常在菌と薬剤耐性をもつ大腸菌が検出されました。入院後しばらくして安定した時期に飲水試験、嚥下内視鏡検査を行い嚥下機能障害と誤嚥があることが確認されました。

図1:

谷内症例2 図1、2.pdf

治療方針

入院後の急性期は酸素投与、絶食とし点滴で水分・栄養を補給、抗菌薬治療、頻回の喀痰吸引、口腔内清潔ケアを行い、10日ほどで肺炎の改善傾向がみられました。全身状態安定後、医師・歯科医師・看護師・栄養士・理学療法士等からなる専門栄養チームの介入により離床・リハビリ・食事訓練を2週間ほど行いましたが、ほとんどの時間を寝て過ごし活気なく、経口摂取もすすみませんでした。ご家族の希望は、本人が苦しむような検査・処置・治療はしないで、自宅で介護し最期まで看取ってやりたい、でも家族が介護疲れしないようにサポートをしてほしい、とのことでした。そこで、長期的で安定した栄養管理法として局所麻酔下に皮下埋没型中心静脈ポート(CVポート)を留置し、在宅点滴栄養の準備・家族指導をしました。さらに訪問診療、訪問看護、訪問薬剤師、訪問入浴、介護用ベッド、喀痰吸引器などを導入して自宅退院となりました。短期間入院する療養型病院(メディカルショート)の利用手続きも行いました。

治療経過の総括と解説

高齢化に伴い、肺炎は悪性疾患、心疾患に次いで日本人の死因第3位に上昇しました。そして肺炎の死亡者の95%以上が65歳以上の高齢者です。

高齢者に発症する誤嚥性肺炎は食物・口腔・咽頭に存在する細菌が誤嚥されることによって生じ、肺炎発症の背景には個体(人間側)の抵抗力・免疫力・気道浄化機能の低下が存在します。肺炎を予防するために、口腔ケア(歯磨き)で口腔内細菌数を減らすこと、歯の治療をすること、入れ歯の調子を整え入れ歯をつけたまま寝ないこと、寝たまま食べずに椅子に深く腰掛けた姿勢で食事をすること、とろみをつけること、顎を引いて一口ずつゆっくり食べること、栄養バランスがとれた食事で免疫力をつけることが大切です。

肺炎発症のサインは長引く咳、膿性痰、高熱、呼吸困難、胸痛、悪寒(ふるえ)が典型的ですが、なんとなく元気がない、食欲が落ちた、ぼーっとしているなど、肺炎とは思えない症状のこともしばしばみられるため注意が必要です。

参考文献