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消化器外科

84歳男性、高齢者とがん (千葉北総病院消化器外科 栗山翔、宮下正夫)

概要

進行胃がんに対し幽門側胃切除術(Roux-en-Y法再建)および,がんの局所浸潤に対して横行結腸部分切除を行った症例。化学療法(パクリタキセル)を行っていたが、腹満,嘔吐が出現し、腹膜播種による腸閉塞が疑われたために緊急入院となった。
<既往歴>
脳動脈瘤、2型糖尿病、高血圧にて治療中であるが、認知症はなし

初診時現症

<一般身体所見>
胸部診察上明らかな心雑音、肺野に副雑音を聴取せず。腹部視診上、上腹部正中に手術痕を認めた。心窩部の正中創直下に腫瘤を蝕知するも、圧痛や筋性防御は認めなかった。

主な検査所見など

<血液検査>
白血球数8100/μl、CRP4.1㎎/dlと上昇を認めた。その他の血液生化学的検査に明らかな異常を認めなかった。

<腹部造影CT検査>
左上腹部に9㎜大、肝門部に11㎜大の結節を認め、再建のために挙上した空腸は腫瘍の再発と共に一塊となっていた。また多量の腹水貯留を認め、腹膜播種と診断された。

<上部消化管内視鏡検査>
残胃内および吻合部には明らかな再発、狭窄はみられず、挙上空腸に内視鏡を進めると易出血性の狭窄部を認め内視鏡は通過しなかった。

<上部消化管内視鏡造影>
挙上空腸に4㎝にわたる不整な狭窄を認めた。

診断と鑑別診断

上記の結果より胃癌術後腹膜播種による腸閉塞と診断した。

治療方針

腸閉塞に対し経鼻胃管を挿入し残胃内容を排出した。また、腹水穿刺も施行した。嘔気が落ち着いた時点で行った諸検査の結果から手術適応なしと判断するも、継続的な残胃の減圧が必要であったため頸部から胃管を挿入する経皮経食道胃管挿入術(Percutaneous Trans-Esophageal Gastro-tubing; PTEG)を挿入し,苦痛を軽減させた。入院時よりがん緩和ケアチームが介入し、経皮吸収型のオピオイド(フェンタニルパッチ)1㎎を開始した。なおも、腹痛の訴えが持続したため2㎎に増量したところ無呼吸を認めたため、投与量を調節しやすいオキシコドン注射剤に変更した。疼痛は改善し、転院もしくは在宅での緩和ケア継続の調整を行っていたが、その後徐々に原病が進行し傾眠傾向、血圧低下を認め永眠された。

治療経過の総括と解説

本症例は高齢末期がん患者に対して、症状軽減を目的に緩和ケアを行った一例である。

本症例のような末期がん患者は悪液質と呼ばれる状態を併発していることが多い。悪液質とは、栄養療法で改善することが困難な著しい筋肉量の減少が見られ、進行性に機能障害をもたらす複合的な栄養不良の症候群であり、病態生理学的には栄養摂取量の減少と代謝異常によってもたらされる蛋白およびエネルギーの喪失状態である。

高齢がん患者においては加齢のみならず悪液質による著明な筋力減少が併存し、QOLの低下をもたらす。悪液質の低栄養を従来の栄養サポートのみで改善するのは困難であるが、リハビリテ-ションや抗炎症療法を早期から行うことが悪液質による低栄養、筋肉量減少を緩和すると考えられている。

本症例は不可逆的な悪液質の状態であったため外科的治療は適切でないと判断された。また、本症例では疼痛コントロールとして経皮吸収型オピオイドにて無呼吸が出現しまうなど高齢者のがん緩和治療にはきめ細やかさと慎重さが必要とされることを再認識した。

参考文献