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総合診療科

アルツハイマー型認知症と偽痛風(日本医科大学付属病院総合診療科 三枝太郎、田中啓広、安武正弘)

概要

アルツハイマー型認知症、両側変形性膝関節症、慢性心房細動等で近医通院中。当院受診2,3日前より倦怠感出現し、以前より認めていた、物忘れや歩行困難の症状が増悪。受診前日より両膝関節の疼痛も出現し、活動性の低下が見られるようになった。受診当日には発熱や食事摂取困難、意識障害などの症状も出現、近医より当院総合診療科紹介受診。

初診時現症

意識レベル:GCS E4V4M4
身体所見:呼吸数24回/分、血圧131/76 mmHg、体温38.4℃、脈拍105/分、SpO2 95%(室内気)、全身に明らかな皮疹や外傷は認めない。
胸腹部の診察上有意な異常所見は認めない。両側膝関節の発赤、腫脹、圧痛、熱感を認める。頭痛、項部硬直は認めず、
他の神経所見は意思疎通困難なため評価困難であった。

主な検査所見など

〈血液検査〉
WBC 12500/μl(Neu 81.6%、Lym 10.3%)、CRP 14.44 mg/dl、プロカルシトニン 0.49 ng/ml、AST 36 IU/l、ALT 28 IU/l、LDH 301 IU/l、ALP 361 IU/l、UA 1.7 mg/dl、Glu 156 mg/dl、HbA1c 6.5%、MMP-3 127.2 ng/ml(基準値:17.3-59.7 ng/ml)、抗核抗体陰性、RF 2 IU/ml、抗CCP抗体陰性
〈尿検査〉
蛋白(1+)、糖(4+)、白血球(-)、潜血(-)
〈画像検査〉
胸部Xp:軽度心拡大、葉間胸水あり、浸潤影等肺炎を示唆する所見は認めない
股関節・膝関節Xp:明らかな骨折は認めない、膝関節内に石灰化を認める
頭部~腹部CT:右前頭葉に陳旧性脳梗塞認める、葉間胸水、心拡大あり、腹部に異常所見認めず
〈髄液検査〉
細胞数 2/μl、糖 79 mg/dl、蛋白 93 mg/dl、LDH 22 U/l
〈膝関節液検査〉
性状:淡黄色、混濁、粘稠性あり 培養:陰性、ピロリン酸カルシウム結晶検出、尿酸ナトリウム結晶陰性

診断と鑑別診断

初診時身体診察、画像所見、血液・尿所見から、肺炎や尿路感染症といった高齢者に高頻度で見られる感染症は否定的と考えられる。意識障害と発熱の観点から、髄膜炎や脳炎が鑑別に上がる。膝関節の熱感から、化膿性関節炎や痛風、偽痛風が鑑別に上がる。髄液検査異常なく、関節液検査でピロリン酸カルシウム結晶が検出されたことから、偽痛風の診断となる。

治療方針

経口摂取不良であったため、入院加療とした。入院時には化膿性関節炎が鑑別に残っていたため、CTRX 2 g/dayを開始した。その後ピロリン酸カルシウム結晶が検出され、CTRX中止、セレコキシブ 400 mg/dayを開始とした。

治療経過の総括と解説

一般的に偽痛風の治療としては、クーリング、安静、関節穿刺吸引等が推奨され、副作用の点からNSAIDsやコルヒチンの推奨度はやや下がる。実臨床においては、NSAIDs投与による治療が行われる事が多い。本症例でもクーリング、安静、NSAIDs使用により、疼痛や炎症反応は著明に改善している。また、ピロリン酸カルシウム結晶溶解の術はいまだ発見されておらず、これら対処療法が中心となる。
偽痛風のリスク因子としては、加齢が主要なものであり、45歳以上で10歳ごとにリスクは倍増すると言われている。他に変形性関節症もリスク因子とされており、変形性関節症罹患なしと比較し3倍の罹患率との報告もある。本症例においては、82歳と高齢であり、両側の変形性膝関節症の治療中である点で、ハイリスクであったと考えられる。高齢者では変形性関節症の罹患率は高値であり、関節痛を伴う高齢者の発熱では、必ず偽痛風を鑑別疾患に加える事が必要である。

参考文献

EULAR recommendations for calcium pyrophosphate deposition. Part I: terminology and diagnosis. Ann Rheum Dis. 2011 Apr;70(4):563-70.
EULAR recommendations for calcium pyrophosphate deposition. Part II: Management. Ann Rheum Dis. 2011 Apr;70(4):571-5.