医師自身による中医学 Herbal Medicine(漢方)とAcupuncture(鍼灸)

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耳鼻咽喉科

68才男性、耳鳴症  (日本医科大学付属病院 耳鼻咽喉科 大久保公裕 関根久遠)

概要


60歳頃より耳鳴を自覚。以前近医受診するも原因不明で治らないと言われた。1年ほど前から増悪し改善しないので来院した。これまであまり気にしていなかったが、知人が脳梗塞で麻痺を患い、脳の障害の予兆ではないかと心配している。

初診時現症

鼓膜所見正常
ジーという蝉の鳴き声のような音が耳からというわけでなく頭の中で鳴っている。
耳鳴は1日中鳴っているが、強い時と弱い時があり、何か好きなことをやっているときはあまり気にならないが、静かなところ、特に寝る前や朝起きた時に強いとのことであった。耳鳴は気になるが眠れないということはなく睡眠時間はとれているとのことであった。
日常生活で難聴を自覚することはあまりない。

主な検査所見など

標準純音聴力検査:左右対称性の高音漸傾型の感音難聴を認める。
ティンパノグラム:両側A型
オトスコープ:他覚的に耳鳴を聴取することはできない。
耳鳴の性質を明らかにする耳鳴検査としては耳鳴の周波数を調べるピッチマッチ検査や耳鳴の大きさを調べるラウドネスバランス検査、耳鳴をカバーできる音量を調べるマスキング検査等が行われる。

診断と鑑別診断

耳鳴症(感音難聴に伴う耳鳴症)
左右対称性の感音難聴を認める。急性発症の経過ではなく、難聴は加齢性難聴と考えられる。鼓膜所見には異常なく、ティンパノグラムもA型で、中耳炎等の中耳疾患は否定的である。耳管開放に伴う呼吸音聴取や、動脈硬化等に伴う血管雑音を疑わせるような拍動性の耳鳴ではない。耳鳴はジーという蝉の鳴き声(蝉時雨の音)という、難聴のある高音域のバンドノイズに近い音であり感音難聴に伴う耳鳴と診断できる。

治療方針

中耳疾患や中枢疾患を疑う所見がないことを説明したうえで、耳鳴が難聴によって生じるもので、危険なものではない事、今後も難聴が進行する可能性はあるが耳鳴によって難聴が進むわけではない事を説明した。また、何かに夢中になっている時には耳鳴を自覚しないが静かなところで何もしていない時に増悪すると訴えており、このメカニズムを説明した。我々が普段エアコンの音などの雑音を気にしないように、これは耳鳴が鳴っていても、他のことに集中している時は脳が音を選択し意識に上らない為と言われている。逆に重要な音、危険な音には注意が向くように、脳が耳鳴を危険な音、注意を要する音と認識することにより意識に上がると考えられる。さらに患者さんが耳鳴は危険なものではないかと不安を覚え、不眠、苛々などが生じるとさらに耳鳴を危険なものと意識してしまい悪循環が生じる。耳鳴は聴こえていても意識しないようにしていると順応が進み気にならなくなるが、耳鳴を危険なもの、不快なものとして強く意識すると増悪するという、耳鳴増悪のメカニズムを説明し、患者さん自身が耳鳴を受け入れられるよう説明した。
また、耳鳴は周囲に音がある方が順応しやすいため、耳鳴が消失しない程度の音を聞かせ、耳鳴を軽減することで順応を促す音響療法も併用する。重症例ではサウンドジェネレーターを用いて耳鳴増悪時に雑音を聞かせ耳鳴を軽減させる。難聴の自覚のある方には補聴器を使用することでも同様の効果がある。本症例は軽傷であり、難聴の自覚もないため、就眠時などに気になるようであったら、ラジオをつけるなど周囲に音を置いておくとまぎれやすいことを説明し、静寂環境を避けるように指導した。不眠は無いという事であったため、睡眠導入剤、抗不安薬の処方は行わなかった。充分に説明したうえで、循環改善薬、ビタミン製剤、漢方製剤などの薬物療法が有効な人もいるので内服の希望があるかどうかを聞いたが、希望なく終診とした。

治療経過の総括と解説

本症例では、積極的な加療の希望は無く、病態の説明をしたうえで、特別な装置を用いない、音響療法で経過観察とした。改善が見られない場合や重症例ではサウンドジェネレーターを用いた音響療法、難聴例では補聴器装用の対象となる。

耳鳴の根治的な治療は困難であるが、耳鳴に対する感度や苦痛度の増強には中枢神経系の機能が関与していると考えられ、これを改善することが重要である。通常は何らかの原因で耳鳴を自覚しても中枢性の順応が起こるが、不安や緊張などネガティブな情動反応が起こると耳鳴を持続的に知覚するようになる。耳鳴を改善するためには耳鳴を危険なものいう認識を変えていく必要があり、耳鳴の治療で最も重要なのはこれを理解していただくことである。同時に耳鳴が増悪しやすい環境を避けることも重要である。軽傷例では静寂環境を避けるだけでも有効であるが、重症例ではサウンドジェネレーターを用いた音響療法も行われる。難聴を自覚する場合は補聴器の使用も同様の効果がある。内服治療は単独では十分な効果を発揮せず、漫然とした長期投与は避けるべきである。

参考文献