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糖尿病疾患の基礎と合併症

65歳男性、糖尿病による神経因性膀胱 (日本医科大学武蔵小杉病院 泌尿器科 堀内和孝)

概要

15年前に糖尿病と診断され、血糖低下薬を内服しながら、食事療法と運動療法を行っている。数年前から尿の出方が悪くなり1回排尿量も以前とくらべると少なくなり、頻回にトイレに行くようになった。糖尿病内科医から泌尿器科専門医を受診するよう勧められ、泌尿器科を受診した。

初診時現症

<一般身体所見>
中背痩せ型でバイタルサインは正常。胸腹部に理学的異常所見なし。
右半身に軽い麻痺がある以外は明らかな神経学的異常所見なし。

主な検査所見など

<尿検査>
尿中潜血(±)、タンパク(++)、糖(+)、ウロビリノーゲン(-)、pH 6.5。尿沈渣では赤血球は10-19/HPF(強拡大)、白血球は50-99/HPF、上皮(±)、結晶(-)。

<血液検査>
血算は正常、空腹時血糖120g/dl、HbA1c(NGSP)6.7%、血清クレアチニン2.45mg/dL以外の生化学検査値は正常。血清PSA(前立腺特異抗原)値は3.0ng/mlと正常。

<直腸内触診>
大きさはくるみ大、硬さは弾性軟、中心溝も触知できた。肛門反射は減弱していた。

<超音波検査>
経腹的前立腺エコーでは前立腺推定体積は25ccで腫大なし。腎エコーでは両側の腎盂・腎杯の軽度拡張を認めた。

<尿流測定>
最大尿流率は3.4ml/秒、残尿300cc。

<膀胱内圧測定>
300mlでも尿意乏しく、排尿筋の収縮不全を認めた。

診断と鑑別診断

尿流測定による最大尿流率の低下、残尿量の増加に伴う頻尿や尿失禁では溢流性尿失禁(尿が出にくいにもかかわらず、膀胱に溜まった尿が意に反して少量ずつ漏れてしまう)を疑う。
脳出血や直腸癌・子宮癌の根治術後の神経因性膀胱(低活動膀胱)、前立腺肥大症などの尿道抵抗が亢進する排尿障害でも溢流性尿失禁の原因になるので鑑別診断が必要となる。
問診による既往歴の確認、直腸内触診による肛門反射などの神経学的所見の確認、超音波検査による前立腺肥大症や水腎症の有無の確認が必要である。

治療方針

コリン作動薬と交感神経α1受容体遮断薬を投与した。
尿は出やすくなり排尿症状は改善したが、残尿がまだ150mlあったため、自排尿後に1日4回(起床時、就寝前、昼間と夕方に1回)の間欠的自己導尿を行った。
腎エコーで水腎症は消失し、血清クレアチニン値も1.8mg/mlに低下した。

治療経過の総括と解説

糖尿病の三大合併症は腎臓障害(糖尿病性腎症)、網膜障害(糖尿病性網膜症)、末梢神経障害である。糖尿病による末梢神経障害では蓄尿症状が生じることもあるが、多くは膀胱の知覚神経が鈍り、尿意を感じにくくなる。
また、運動神経が鈍ることにより排尿筋の収縮力も弱くなる。膀胱がゴムのように伸びきった状態になり、膀胱に尿が溜まり放題になる。この状態が続くと腎臓から尿管へ尿が流れにくくなり、水腎症となり腎機能がさらに悪化する。

糖尿病そのものの管理と排尿の管理が大切である。膀胱の収縮力を増強する目的でコリン作動薬やコリンエステラーゼ阻害薬、尿道抵抗を下げる目的で交感神経α1受容体遮断薬を投与する。それでも効果が不十分で残尿が100mL以上あるような場合には間欠的に直径4mm程度の軟らかい管(カテーテル)を尿道から膀胱へ挿入し、尿を出す(間欠的導尿)必要がある。間欠的導尿では膀胱に溜まる尿量が300mL以上とならないように1日何回か(最低でも就寝前と起床時)行う。
膀胱に尿を300mL以上溜めてしまうと膀胱上皮細胞相互の接着が低下して感染を起こしやすくなる。

参考文献