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糖尿病疾患の基礎と合併症

77歳女性、2型糖尿病と老年うつ (日本医科大学多摩永山病院 内科 小谷英太郎)

概要

65歳時に、夫が死去してから全身倦怠感、食欲不振、無気力となったため精神科を受診し、うつ病と診断され治療を開始していた。しかし、全身倦怠感が持続、10 kg/半年の体重減少を認めた。
精神科の採血で随時血糖348 mg/dl, HbA1c 9.0% (JDS)を指摘され、糖尿病の診断で入院。各種検査にて2型糖尿病と診断。1200kcal/dayの食事療法にて食後血糖も含めて100 mg/dl台となりグリメピリド1 mgのみで退院。経過中にグリメピリド0.5 mgに減量、半年間の中止期間があったが、HbA1c 5.0~7.3%で経過し概ね良好であった。
しかし、血糖コントロール状況にかかわらず全身倦怠感が持続、うつ病の悪化に伴う活動量の低下と摂食量の増加により体重が増加(43→50 kg)、HbA1c 8.5%となり、DPP-4阻害薬、および少量のビグアナイド薬の追加を余儀なくされた。

初診時現症

〈一般身体所見〉
初診時、全身倦怠感。身長140cm、体重37kg、Body mass index (BMI) 18.9kg/m2。

主な検査所見など

〈血液検査〉
WBC 7800/μl, RBC 476×104/μl, Hb 14.1g/dl, Plt 26.2×104/μl, AST 14 IU/l, ALT 14 IU/l, LDH 176 IU/l, T-Cho 159mg/dl, TG 68mg/dl, HDL-C 44mg/dl, UA 2.6g/dl, BUN 12.1mg/dl, Cr 0.6mg/dl, 空腹時血糖138mg/dl, HbA1c 9.0% (JDS), インスリン1.5μU/ml, 抗GAD抗体<0.3U/ml.

〈尿検査〉
尿糖(-), 尿蛋白(-), 尿ケトン(-), 尿中Cペプチド(CPR) 62.3μg/day, 尿中アルブミン24.1mg/day.

診断と鑑別診断

うつ病:12年前に精神科にて診断され治療中。全身倦怠感が常にあり。セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるミルナシプラン50 mg、三環系抗うつ剤であるイミプラミン50 mgより開始されたが、現在は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬であるロラゼパムと非定型抗精神病薬のひとつであるスルピリドが処方されている。

2型糖尿病:うつ病発症前から糖尿病が存在したかどうかは不明で、うつ病を契機に診断された。インスリン分泌能と抗GAD抗体陰性より2型糖尿病と診断した。発症当初はやせ型でインスリン分泌不全型であったため、少量のスルホニルウレア(SU)薬のみで外来通院とされていた。
合併症の診断:初診時から、古典的な三大合併症(網膜症、腎症、神経症)なし。心血管系合併症なし。

血糖コントロール悪化の要因:本例は基礎にうつ病があり、その症状の浮き沈みにより、身体活動量、食事量が大きく変化する。初診時は体重37kgとやせ型であったが、うつ病悪化時には50 kg(BMI 25 kg/m2以上)にまで達してしまうことが最大の要因である。

身体メンタル機能など

治療方針

インスリン分泌不全型で、既にSU薬が投与されている場合、低血糖、体重増加などを考慮すると、可能な限り少量に減少することが望ましい。「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」でも代替薬としてDPP-4阻害薬を考慮するとされている(表)。ただし、完全に中止すると血糖コントロールが急激に悪化する場合があるため、中止は慎重に行う必要がある。

本例でも、グリメピリド0.5 mgを残しDPP-4阻害薬を追加した。しかし、体重増加に伴いHbA1c 8.5%となったため、少量のビグアナイド薬(メトホルミン500 mg)を併用した。ビグアナイドは乳酸アシドーシスの懸念から、高齢者に対しては使用を控えるべき薬剤であるが、使用する場合はメトホルミン(少量)とし、注意深く観察することが必要である。

治療経過の総括と解説

【精神科疾患に伴う糖尿病管理と高齢者に慎重な投与を要する薬物】
精神科疾患は、肥満、メタボリック症候群の合併が多く、糖尿病の増悪因子である。まず、原疾患に伴う体重増加を抑えることが必要であるが、内科医は精神科領域の薬剤を自由に扱えないため、両科の連携が重要である。非定型抗精神病薬には血糖上昇作用がある薬剤(オランザピンなど)があるため(表)、投与例からの糖尿病発症にも注意が必要である。

参考文献