数ヶ月来、発熱があり、訪問診療にて抗菌薬(キノロン薬)を処方されるも改善せず。呼吸困難も出現した。咳嗽はなく胸部CTにて両下肺に浸潤影を認め、誤嚥性肺炎にて入院となる。入院時の喀痰抗酸菌検査は陰性であるも、培養6週目に陽性となる。改めて抗酸菌検査を実施したところ、喀痰の塗抹陽性と判明し結核病院に転院となった。一ヶ月後、排菌陰性化したため在宅調整を行い、抗結核療法を継続することとした。
1.高齢者における結核
結核はMycobacterium tuberculosisによる感染症である。結核は減少傾向とはいえ、2013年の結核の統計では我が国の罹患率(人口10万対の新登録結核患者数)は16.1であり、年間2万人以上の新たな罹患者がおり、いまだ多く見られる感染症である。新登録結核患者のうち60歳以上が占める割合は71.2%、70歳以上の占める割合は57.4%となり高齢者に多く発生している(※1)。
≫疫学情報センター 結核の統計
結核は「長引く咳」の場合に早期に受診・診断することが重要である。高齢者になるほど咳嗽や発熱などの典型的な症状に乏しくなることが特徴である。本症例でも咳嗽は認めず、また誤嚥や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで元々慢性咳嗽を有する場合は受診や診断が遅れることがある。また呼吸器感染症の治療に頻用される抗菌薬であるキノロン薬は、結核に抗菌活性を有するため、本症例のように、肺炎の初期治療としてキノロン薬を投与され、抗酸菌検査が陰性になることにより、診断の遅れに繋がることが稀に経験されるので注意が必要である。したがって、高齢者の肺炎では結核の確認を行うことが重要である。
2.地域における結核診療
結核感染症のうち、約4割を占める喀痰塗抹陽性患者は感染症法に基づき結核病床を有する医療施設で入院加療が行われることが多い。現行の退院基準では、2週間以上の標準的化学療法が実施され、咳、発熱、痰等の臨床症状が消失し、喀痰の培養塗沫検査の結果が連続して3回陰性であることが条件となる。結核治療は半年以上9ヶ月の治療期間を要し、塗抹陰性化したあとは地域の医療機関、社会福祉施設で継続加療が行われる地域連携システムを利用することが重要である。
3.DOTS
直接服薬確認療法(directly observed treatment short- course)のことである。結核は長期にわたる抗結核療法が必要であり、治療の中断は再燃や結核菌の耐性化のリスクが高く、外来や施設における確実な服薬コンプライアンスの確保が重要である。我が国では現在、保健所、医療機関、ケアワーカー、調剤薬局が連携して実施されている。
4.結核の接触者検診
核に曝露した場合、感染後、数ヶ月から2年以内に発症する。保健所の指導に基づき感染源の咳嗽の有無や感染性を考慮し、胸部レントゲン検査や、結核菌特異抗原に対するヒト免疫反応Interferon-Gamma Release Assay(IGRA)検査が実施される。
図) 胸部単純CT写真: 中央右寄りの心陰影の右下と、左側(右肺)に浸潤影を認める。
認知症で施設入所中の方が発熱と呼吸状態の悪化にて救急要請があり、発熱38.2℃、脈拍110回/分、呼吸回数18回/分、既往歴: 認知症、脳梗塞後遺症。
1.高齢者における肺炎
肺炎は2012年以降、がん、心不全に次いで第3位の死亡原因である。超高齢化社会の進展に伴い、今後も増加傾向が続くことが予想される。高齢者では抗菌化学療法が進歩した現在でも肺炎は致死的な疾患ある。さらに肺炎を発症し入院加療を行うと日常生活動作: Activities of Daily Living(ADL)が低下し、認知症が更に進行することとなるので、肺炎にかからないことが重要となる。
2.高齢者における呼吸器感染症予防
1)インフルエンザワクチン
インフルエンザは主に冬季に流行し、毎年500~1000万人以上が罹患する。高齢者では咳嗽や全身症状が乏しく、しばしば施設内感染もみられる。インフルエンザ感染はその後の細菌性肺炎のリスクを高める。抗インフルエンザ薬の投与でその後の細菌性肺炎のリスクを減らすことができる。インフルエンザワクチンの発症阻止効果は~50%と低いが、重症化阻止効果が高く、肺炎以外の心疾患や糖尿病の増悪を予防できる。毎年接種することをお勧めしたい。
2)肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌は肺炎の原因菌として(~30%)最も多い。2014年10月以降、65才以上の高齢者の一部にワクチンが定期接種の一部補助が行われている。補助の有無に関わらず、ワクチン接種を啓発する必要がある。
3)誤嚥予防
高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎である。実施可能な誤嚥予防として、入れ歯の清潔な管理を含む口腔ケア、食直後の臥位を避けること、食事の工夫(ぬるめを避け、熱め・冷たい・辛いなど誤嚥しにくい食事)、適度な運動などを日頃から行う必要がある。
図) 右肘内側に瘙痒感を伴う丘疹を認める。
図) ヒゼンダニ
疥癬トンネルの形態(写真提供:赤穂市民病院 皮膚科 和田康夫先生)
数日前から右肘に瘙痒感を伴う丘疹があり、皮膚科受診。ステロイド含有軟膏を処方されるも改善せず、悪化していた。
1.ダニ感染→疥癬
ヒゼンダニが皮膚角層に寄生して発症する皮膚感染症である。人の角層に寄生し、人の肌から肌へと感染する。雄は皮膚表面や角質層に、雌は水泡を伴い皮膚が数ミリ盛り上る疥癬トンネルに生息し、卵は約1~2週間で成虫となる。疥癬は、主に指間、腋窩、陰股部などに強い痒みを伴う赤色の小丘疹がみられる。疥癬は大正6~7年、昭和20~21年に大流行し貧困や戦争による栄養状態・衛生環境の悪化が集団感染の原因であったとされていました。最近では高齢者施設を中心に、高齢者とその介護者に発症が増え、今回の流行は30年を超えていまだに続いています。病型には通常疥癬、角化型疥癬があります。
2.疥癬トンネル
寝たきりの高齢者の手足などに認められます。ヒゼンダニは角層内に体を潜り込ませた後、水平に掘り進みながら前進し、後方に卵や糞を残します。これは細い曲がりくねった1本の線状のあととして認められ、疥癬トンネルと呼ばれます。長くて5mm程度でトンネルの天井部位には等間隔に約0.2mmの穴があいています。トンネルの先端部には産卵中の雌成虫が潜んでいます。
3.ダニ退治法
1)ダニにとって格好の住みか
カーペット、畳、寝具、ぬいぐるみ、たたみ+カーペットは最悪(高熱と乾燥を嫌い、暗く湿気のある温暖なところを好む)
2)ダニ退治ポイント1(布団のダニは天日だけでは除去できない。)
宅配クリーニング(布団丸洗いによる高熱処理がベスト)、布団乾燥機、スチームアイロン(高熱に死滅)、ダニ駆除剤
3)ダニ退治ポイント2(餌をなくす)
綿ボコリ、髪の毛やフケ、ペットの毛やえさ
≫ダニよ、さらば!布団のダニ退治・対策3ステップ
1.市中感染症
東日本大震災では冬季に発生し、感冒、インフルエンザや感染性胃腸炎などの市中感染症の発生がみられた。これらは、市中感染症であり、避難所でも多く発生する感染症である。日頃の手洗い、うがい、呼吸器衛生/咳エチケットの遵守が重要である。
2.肺炎
阪神大震災、新潟県中越地震、東日本大震災でも発災2週間以降は呼吸器感染症の増加が一様にみられた。肺炎の原因菌は肺炎球菌であり、肺炎球菌ワクチンによる予防は、いつ発生するか分からない災害に対しても重要である。
3.破傷風
災害時の外傷は破傷風の発生が懸念される。東日本大震災では計10例の破傷風の発生が報告された。症例は少ないものの、破傷風は長期のICU管理を要する重症感染症である。幼少時の破傷風トキソイドワクチンの効果は30代以降減弱し、また1968年以前の出生者はワクチン接種歴もないため、積極的な接種が必要である。